The DAOに集まった150億円相当の資産のうち3分の1となる50億円ほどのアタッカーに奪われ、その後のThe DAO運営チームとイーサリアムチームの動きが議論の的となってきた。
そして今回The DAOトークン保有者のうち97%がハードフォーク実装を支持していることが判明した。早ければ一週間以内に行われることも考えられる。
今回の決定に至った経緯やそれに対するブロックチェーン周りの意見などを紹介していく。
そもそも今回の事件に対するThe DAOやイーサリアム運営チームの対応策としては大きく分けて3つが考えられてきた。
まず挙げられるのが「対応を行わない」ことだ。
今回の不正とされる送金に対して“攻撃者”の行動を傍観しフォークなどの措置を行わないことを示す。攻撃者は以前公表した意見の中で「コードに則った行為であり、違法性はない」と主張しており、この意見をそのまま肯定することとなる。しかし、The DAOユーザーはこの意見に対してあまり快く思ってはいないようだ。
次に挙げられるのが「ソフトフォークにより攻撃者の資産を凍結する」こと。
以前はハードフォークと合わせて実行されるのでは、との声も多く実装も検討されたがシステム上に問題が発覚し、再度構築し直す為には多くの時間を要することが判明し行われるのは現実的ではない。
そして最後が「イーサリアム運営チームがハードフォークを行い、“攻撃”以前の状態に戻す」ことだ。
これが今回97%に上るThe DAOユーザーの承認を得たことになる。
しかし、実際にハードフォークを行うことに対して波紋を呼んでいることは確かだ。The DAOユーザーの97%が承認をしたという事実を信頼すれば、ハードフォークに反対している者はThe DAOユーザーの内約3%、もしくはThe DAOユーザーでないものが反対していることになるが。
どちらにしろ150億円を集めたプロジェクトであるThe DAOの今後については明るい話題を期待できそうにはないかもしれない。
The DAOの盛り上がりはETHの時価総額上昇にも繋がっていたがそれももはや落ち着いている。
またイーサリアム創業者の一人であるVitalik Buterin氏が、The DAOプロジェクトに対して資金提供をしていたことも明らかになっている。そのためイーサリアムコミュニティからは今回フォークとしてThe DAOプロジェクトに介入することを「Proof of Vitalik」だと揶揄し、快く思わないものもいるようだ。これはブロックチェーンの理念の一つである非中央集権型システムに対する冒涜で、個人の意思をシステム決定に織り込むべきではないとのこと。
◇ビットコインコミュニティからは非難の声多数
今回イーサリアム運営チームがThe DAO事件の対応としてハードフォークを行うことに対しては、支持決定以前からビットコイン関連のコミュニティからは否定的な意見が多い。
以下に幾つかの意見を記す。
- ビットスクエアを開発したマンフレッド・カラー氏
「今回の攻撃者は非常に賢く過小評価すべきではないし、もっと事態は悪くなることも充分ありうる。もし今回の出来事に対してイーサリアムチームがフォークを選択すれば、それ以降も攻撃者は攻撃を続けると推測される。そして事件の原因はThe DAOプロジェクトに対して過剰に資金が集まってしまったことにある。それが攻撃者の対象となる理由になってしまった。それにはThe DAOのデベロッパーとマーケターの考えが異なったことも関わるだろう。まだ未成熟な企画に150億円も集めるべきではなかった。」
- ライトニングネットワークの開発に関わるエリザベス・スターク氏
「短期的に捉えるのではなく、もっと長い視野を持ってフォークを行うことの意義やリスクを検討すべきだ。ブロックチェーンテクノロジーを利用するイーサリアムはただプログラムを実行するのみで、個人の意思で管理されるべきではない。今回攻撃者によって移動された資産を元の持ち主に返すフォークを行うことはパンドラの箱を開けることに似ている。今後同様の事例が起きた場合に、またどのようなプロセスで決定されるのか議論を呼ぶ。それはイーサリアムプラットフォーム自体の信頼性に関わる。もし今回の事例に対し特例的にフォークを行うにしても今後は行わないことを明らかにする必要がある。」
BTCCの最高執行責任者であるサムソン・モウ氏
「今回の出来事に対する対応は非常に悩むべきものであるが、イーサリアム運営チームは介入を行わないことが一番である。何もしないことが暗号技術を利用した通貨の理念に基づくことであるし、フォークを実行することはイーサリアムプラットフォームのシステムは必要に応じて書き換えられてしまうという印象をユーザーに与えてしまう。それは目の前のメリットを大事にするために長期的なデメリット、多くのユーザーが離れサービスが無価値なものになってしまうことにも繋がる。今回のように個人の資産を守るためにコードを書き換えるような判断はビットコインは絶対行わない」
- サトシラボの創業者、マレク・パラティヌス
「今回のThe DAO事件によって失うものは多く、運営チームは自らのシステムに欠陥があったことを認める必要がある。そしてイーサリアムプラットフォーム自体には過失はなかったため、運営チームはフォークなどを行う必要はない。今回の事件から、今後起こりうるシステム上の欠陥にどのように対応するかを知見を得る必要がある。なぜならスマートコントラクトアプリケーション内でバグが発生することは珍しくないからだ。イーサリアムだけでなくビットコインに関しても、プロトコル上にバグが発見されたケースについて想定しておくことが示された。しかし、ビットコインにダイレクトに関係していないバグのためにフォークを行うことはあってはならないが」
ビットコインに関わるものにとってはThe DAOの事件に関してイーサリアム運営チームがフォークを行うことは、否定的に捉えるものが多そうだ。
そもそもビットコインというプロジェクト自体が中央の管理者による不確定な意思決定を排除ことを盛り込んだ決済プラットフォームだからだ。それによってデベロッパーチームの意思決定自体に時間がかかるという課題もあるが、非中央集権を突き詰めることでビットコインの値打ちを守ってきた。
そしてイーサリアムも中央の管理者が不在である、クラウドコンピューティングを実現するためのプラットフォームというのが本来の在り方である。
◇The DAOトークン保有者の約97%がハードフォークを支持
今回約97%のThe DAOトークン保有者がイーサリアムチームの提案するハードフォークに賛成し、ハードフォークを行われることが現実的になった。
今回のハードフォークの目的は、端的に言うとThe DAOが攻撃を受ける前の状態にすることである。これにより今回攻撃者により移動されたETHが元の保持者の元へ帰ることとなる。
しかし、イーサリアムプラットフォームやブロックチェーンを支持する者の多くは「分散型システムで中央に管理者が存在しない」ことをメリットと捉えるものも多いとされている。
そのため取引をプラットフォーム管理者により取り消されることは、分散型システム支持者が離れるのではとの懸念がされていた。
今回行われることが濃厚となったハードフォークはイーサリアムプラットフォームにどのような影響を与えるのか、注目が集まる。
システムの仕組み上、The DAO内にて送受信された資産は28日間の期限が過ぎないと次の移動を行うことができない
今回攻撃の対象となったETHはスパムなどの関係から少し伸ばされた期限である7月21日頃から次の移動が可能となる。
そのためハードフォークは7月21日までに行われるだろうと予測されている。
イーサリアム運営チームからは既にハードフォークのためのコード作成を開始していることも公表されており、またそれが完了するにはそれほど日数も掛からないとのことだ。
◇イーサリアムから公表されたハードフォークの詳細、今後の影響は
今回し時を受けたハードフォークの詳細について、イーサリアム運営チームのピーター・スジラズィは以下のように説明した。
「ハードフォークを実行するための環境構築はそれほど簡単には済まないだろう。以前話題となったソフトフォーク(攻撃者の資産を凍結するための措置)に関してはネットワークに関わる課題が数多く出た。それを踏まえて今回のハードフォークを適切に実行するためゆっくりとではあるが着実にコード作成作業を進めている。そして予測される課題を改善するため何度もテストを行い、あらゆる状況を想定して実験していく。
今回行われるハードフォークが成功すればイーサリアムプラットフォームは不測の事態に対しても適切に対応できると示すことができ、ユーザーの資産を守ることが可能だとわかる。今回はThe DAOの機能を突かれてETHが移動されたが、イーサリアムに関する不具合出なかったことは幸いだ。」
またイーサリアムに詳しい記者であるアンドリュー・クアンソンは「今回のThe DAO事件ではイーサリアムの安全性を示す仕組みが二つ明らかになった。そのひとつがハードフォークだが、もう一方はイーサリアム運営チームだ。今回のように予期しない出来事が起きた場合でも、ユーザーの意見がまとまればイーサリアム運営チームが適切な処理を行うことができる。それがビットコインと比較した場合のイーサリアムのメリットとなる」
イーサリアムに近い人々は今回のハードフォークが実行されることで、イーサリアムの安全性が証明されプラスの効果を生むと考えているようだ。
今回のユーザーの合意により明らかになったのは、ユーザーは非分散型のシステムのみを願っているのではなく、あくまでユーザーが何らかのメリットを受け取る(資産が適切に守られるなど)ことが最も優先であり、その手段として非分散型システムが挙がっていたということなのだろうか。
今後どのような評価を受けるかはまだわからないが、ブロックチェーンサービスはその多くが未だ過渡期にあると思える。
あのビットコインでさえ以前はプロトコル上にバグが発生するという、The DAOプロジェクト以上の致命的なバグが発見されロールバックを行ったのだから。そのようなトラブルを経て優れたサービスへと前進するサービスもあるのではないか。
話題を集めてもサービスのローンチまで至らない、時間の掛かっているサービスも多い中、良いサービスを生むための適切な競争が行われることを期待したい。
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