Digix(ディジックス)とは イーサリアムが再構築する金本位制

 

クラウドセールという言葉が仮想通貨周りの人々を賑わせている。

開発者が開発費捻出のため独自に作成したトークン(独自の仮想通貨)を発行し、プロジェクトをサポートする人々がビットコインやイーサリアムにてトークンを購入するための市場だ。

仮想通貨を利用した新たな仕組みのクラウドファンディングとして、仮想通貨に定着しつつある。

トークンを購入した人々は、サービス参加に対し特別な権限を付与されることができるため、情報感度の高い仮想通貨ユーザーからは人気を集めている。

以下は最近行われたイーサリアム関連のクラウドファンディングの結果だ。

順にプロジェクト名 / 目標額(集まった金額) / 仮想通貨に限定した、クラウドファンディングにて集まった金額の順位 / クラウドファンディング全体での金額の順位となる

  • イーサリアム / 約20億円 / 1位 / 5位
  • Lisk / 約6億4千万円 / 2位 / 19位
  • Augur / 約5億8千万円 / 3位 / 22位

すべての仮想通貨にてクラウドファンディングが行われているわけではないが、現在のイーサリアムの勢いを表す指標の1つになることは確かだ。

そして先日のクラウドファンディングにて約6億円分のトークンを売り上げたプロジェクトがある。それがDigixだ。

金額としてはLiskにやや劣る印象だが、Digixがイーサリアムユーザーを騒がせた理由は、Liskが目標金額を集めるのに30日掛かったのに対して、わずか12時間で6億円の目標金額を集めたことによる。

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◇今最も勢いのあるイーサリアムプロジェクト、Digixとは

Digixとはイーサリアムのブロックチェーンプラットフォームを用いて、現実の金(ゴールド)をトークンとするサービス。

Digixでは「gold strage」(金の保管庫)や「デジタル資産での金本位制」と謳っている。

プロジェクトは黎明期からのイーサリアムユーザーがシンガポールにて進めており、1年前からクラウドセールに向けて備えていたことが今回の結果に繋がったのでは。

他にも金をデジタル化するプロジェクトがある中でDigixが注目されている理由は、提唱されるProof of Asset(資産の証明)の信頼性である。ブロックチェーン上に金保有状況、トークン保有情報を共有、確認可能にすることでカウンターパーティリスクを抑えている。つまりトークンを金に変換する際に実際には金が無い、といったケースを避けるために、情報の記録共有にイーサリアムのブロックチェーンを利用している。そして実際に金を動かすことなく、インターネット上で富を取引可能にしたわけだ。

 

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◇Digixの特徴、Proof of Asset(PoA)とは

上記の概略図を参考にしつつ、Proof of Assetのシステムについて述べていく。

実物の金をトークンとして利用するために、必要な情報をデジタル化して登録する必要がある。そのためのプロセスをPoA verificationと呼び、主に以下の情報をブロックチェーンへ登録する。

  • 登録日時
  • 金の重さ
  • 品質保証者
  • 保有者
  • 外部監査人

これらのデータをPoA Cardと呼ばれるイーサリアムプラットフォームのトークンへ登録する。この時点で実際にインゴットを所有する際の、インゴットの保証データなどが一律で登録されている。

Digixの有用性を語る際にまず始めに言及されるのは、実在の金を物理的に動かすことなく、その取引を行えること。

イーサリアムプラットフォームのブロックチェーン上にてデータが記録されているため、ブロックチェーンの特徴である透明性に優れたデータの共有が行われ、登録されたトークンの価値証明が行われる。

さらにイーサリアムプラットフォームにスマートコントラクトを設定することでスマートコントラクトの特徴である自動性、信頼フリーの状態で金所有権の取引や法定通貨へのトレードすることが可能である。

そしてPoA Cardを所有していれば、シンガポールのオフィスにて実際のインゴットへ交換することもできる。

下記がAssetとして登録されるまでのフローとなる。

 

 

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◇さらに利便性を高めるためのDigix Tokens(DGX)とは

さらに実際の決済用としての利便性を高めるためにDigix Tokens(DGX)と呼ばれるトークが用意されている。

DGXはPoA Cardから作られる、1グラム当たりの金の価値を表す単位トークンである。つまり自身のブロックチェーン記録に100グラムの金を所有していれば、100DGXまでのトークンを作成可能となる。DGXデータとPoA Cardへの変換は相互に行うことができ、そのプロセスはスマートコントラクトにて管理されており、Minster smart contractとRecaster smart contractと呼ばれる。

このようなプロセスにて実在の金とトークンの価値を連動することで、実際にインゴットへ変換する際に、インゴットが存在しないといったカウンターパーティリスクへ対処していると言える。

そして取引記録はブロックチェーン上に保管されているため、万が一Digixが機能を止めることがあっても、ブロックチェーン上のデータをもとにインゴットへの変換が行われる。

 

 

◇Digixの目指すDappsプラットフォームとは

さらにDigixの構想としては、金をトークン化するだけでなく発展的な利用方法を考えている。

デジタル化した金を利用した、分散アプリ(Dapps)を提供するプラットフォームを視野に入れている。

詳細はまだ不明だが、金をトークン化することでDigix単体での通貨価値が高まるとみてのプラットフォーム構想ではないか。

ビットコインやイーサリアムが投資の対象として捉えられることが多いのは、価値が定まっておらず需要と供給に応じて値段が上下するためである。それに対し金も価格の変動はあるが、Digixの場合他の仮想通貨の変動と別に金の価値にも影響を受けるとみられる。そのため他の仮想通貨と別の価格変動が予測され、イーサリアムの価格上昇とは別軸でDigixの価格上昇が起こり、独立した価値も持つことも視野に入れているのでは。

またDigixの最も特徴的な点は非デジタルな物をトークン化しブロックチェーン上へ乗せることである。

そのため将来的には金以外に他の貴金属(宝石類やプラチナなど)を同様の手法でトークンとして取引可能にしていく可能性もある。

 

◇Digixのクラウドセールトークンの価値

冒頭で触れたクラウドセールにて売り出されたトークンの役割について触れる。

今回売りに出されたトークンはDigixDAOトークン(DGD)と呼ばれる。

DGDの保有者は実質的に配当機能とプロジェクトへの投票権を持つ株式の役割を果たす。この辺りは法律など未整備であり、無用のトラブルを避けるためか株や有価証券といった呼ばれ方はされていない。

しかしDGDの所有者には3ヶ月に1度Digixを利用した取引やインゴットの交換にて得られる手数料などの収益が1部支払われる。また今後プロジェクトの方針へ判断が必要な際には投票が可能となる権利が与えられる。

Digixの今後の発展次第では魅力的にも映るがすでにクラウドセールは終了しており、現在は手に入れることが不可能だが、プロジェクトの拡張時に改めてトークンが発行される可能性もある。

そしてDigixはPoAシステムを採用していることから、Digix運営者にはインゴットやトークン自体へのアクセス権へ介入することはできないとしている。

DGD所有者自身にがプロジェクトの方針を決める権限や、ケースによってはDigixのボードメンバーの交代を支持することもできるため、Digix自体はイーサリアムプラットフォームのスマートコントラクトにて機能するDAO(分散型の自律組織)と定義している。

 

◇Digixが孕むリスク

  • 金のトークン化を行う意義

金自体は有史以来、保有量の上限などから安定した価値貯蔵として機能している。現在でも資産の貯蔵方法として選ぶ資産かもいるなど安定した需要が存在する。

PoAという複雑な過程を経てデジタル化する意義があるのかといった意見も存在する。

そもそも仮想通貨の起源であるビットコインの登場は既存の物理的要因に影響を受けないことが最大のメリットの1つと言われていた。法定通貨や貴金属のような物理的な制限を受けずに、電子上の暗号技術のみで完結することが仮想通貨の価値でもある。

今回のDigixのビジョンは正に仮想通貨の方向性と逆行するものであると言える。

しかし、個人的には仮想通貨の普及や価値の確立自体が黎明期である現在においては、将来の仮想通貨普及への過渡期に現れた既存の経済観念との橋渡し役として興味深い仮説の1つであると思う。

 

  • インゴットの保存に関する課題

現段階では実際に金のインゴットへ交換可能な箇所がシンガポールに限られている、つまりシンガポールへ大量のインゴットを保管する必要が発生し、必然的にセキュリティの問題が現れる。またシンガポール政府の動向や情勢による影響がないとも言えない。

そもそもシンガポールのみでしか交換ができないというのは、おそらく実際の交換はあまり視野に入れられていないと推測される。今後のDigixの発展次第だが、その辺りが問題として表出される可能性もある。

 

  • イーサリアムのセキュリティ性能は適切なのか

Digixはイーサリアムプラットフォーム上にてDGXとPoA Cardの変換などをスマートコントラクトにて自律、自動にて行われ、データがブロックチェーン上に記録されることがシステムのコアとなってる。

しかし以前からイーサリアムのセキュリティ面における脆弱性は指摘されており、実用段階へは達していないとする見方もある。

今回扱われる対象が金であり、非常に資産価値の高いトークンになることが予想されるため、イーサリアムプラットフォームが適切であるかは議論の余地がある。

サイドチェーンを利用した自律アプリケーションの方がイーサリアムプラットフォームよりもシステムの堅牢性に優れるとされるため、今後のイーサリアムのアップデートにもよるが、懸念として残る

 

  • アセット登録する際や保管場所への人的介在

実際に運用が始まってみないと不明な部分もあるが、アセットを登録する際やシンガポールの金保管所を運営するにても、人的介在が排除できないシステムである。

ビットコイン始め仮想通貨はヒューマンエラーが排除されいる点も既存の法定通貨より優れている点であるが、物理的な金を扱うことで、その辺りのリスクが懸念される。マウントゴックス事件もビットコインのシステムが破られたのではなく、管理する側の人間の問題であったとされているのだから。

 

他にもクラウドセールスされたトークンの権限が実際にどのような範囲に及ぶのか、など様々な議論を必要とするプロジェクトではあるが、市場での期待が高いことは疑いようがない。

実際の金を移動させるのではなく、所有権の移動といったアイディアなので考え方としてはリップルの貸借権の移動、といった概念に近いと言える。また物理的なものをデジタル化して利用する発想もIoTの要素も取り込まれており、非常にクリエイティブかつ、今後のブロックチェーン技術の可能性を示すプロジェクトであると感じる。

しばらくイーサリアムプラットフォームでのプロジェクトが、ブロックチェーン界隈の注目を集めそうだ。

 

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