スケーラビリティ問題とは -ビットコインの抱える技術的限界-

 

ビットコイン取引所の「Zaif」が1日辺りの取引高にて10億円を記録し、イーサリアムのブロックチェーンプラットフォームを利用したスマートコントラクトアプリケーション「Digix」がクラウドセールにて14時間で6億円を集めるなどブロックチェーン業界がますます盛り上がりを見せている。

様々なITサービスを革新していくと謳われるブロックチェーンテクノロジー。インターネット産業において予てからのキーワードであった「改ざん不可能な暗号技術」の地位を、従来必要だったコストを大幅に削減する離れ業を副産物に手中に収めつつあるブロックチェーンは、果たして万能なのか。

今後さらなる普及の波を迎える前にビットコインやスマートコントラクトアプリケーションを利用する上で、考慮すべきリスクはないのか。

今回は以前から開発者の間で声の上がっている「ブロックチェーンのスケーラビリティ問題」に関して触れる。

 

◇スケーラビリティとは

スケーラビリティという単語自体はブロックチェーン固有のものではなく、ソフトウェア開発の現場で用いられていた言葉である。システムやそれを利用するネットワーク、及びアルゴリズムを実際に業務へ導入する上で備えるべき性質である。目的としてユーザーやシステムの仕事量が増加した際に、問題なく適応するためである。システムの持つ拡張性と表現されることもあり、例として以下の項目が挙げられる。

  • 規模透過性

ユーザーや仕事量の変化により、システム運用に必要なリソースを適時変化させることができること

  • 位置透過性

ユーザーとリソース間にある距離に関わらず、ユーザー体験が一定であること。

  • 異種透過性

異なる複数の機器やソフトウェアから構成されるシステムが、ユーザーへそのことを意識させずに利用可能なこと

一般にスケーラビリティについて論じる場合、この中でも規模透過性について主に論じる場合が多い。そしてブロックチェーンにおいて論じられるスケーラビリティ問題も規模透過性に関してだ。

 

◇ビットコインの普及が内包しているスケーラビリティ問題とは

現在最も大規模で利用されているブロックチェーン技術としてはビットコインが挙げられるが、元開発者のマイク・ハーンが語るようにスケーラビリティの問題を孕んでいると言われている。

ビットコインが抱える問題は非常に明確で、現在のシステムでは1日に処理できるのが最大で604,800取引となっていることだ。参考としてVISAやMasterといった大手のクレジッットカードサービスを提供する企業は1日に4〜5億ほどの取引を処理している。

この大手クレジットカード会社の取引数と同等の量の取引をブロックチェーンにて処理する場合、ブロックチェーン参加者1人辺り年間47TBのデータ容量を必要とする。

ブロックチェーン内の処理能力を超える数の取引が行われた場合、取引の遅延やコストの増加、最悪のケースではブロックチェーン内の取引が停止することもありうる。

時価総額が7000億円を超えたビットコインやブロックチェーンの普及率が向上していく上で、スケーラビリティへの対応は避けて通れず、いち早く解決されるべきなのだ。

 

◇スケーラビリティに関するビットコイン開発者たちの言及

以前から発言が話題を呼んでいるビットコインのコア開発者だった、マイク・ハーンやギャビン・アンドリーセンはスケーラビリティ問題の解決策として「Bitcoin XT」と呼ばれる新ヴァージョンのビットコインを提案したことでも知られている。

Bitcoin XTの最大の特徴は元々1メガバイトだったビットコインのブロックサイズの限界を、8メガバイトへ拡大したことが挙げられる。そしてその後63,072,000秒、つまり約2年ごとに倍にしていき2036年までにブロックサイズが8000倍に達するというものだ。

だがBitcoin XTには以下の2つの問題点があったとされている。

  • テクノロジー面の検証が十分に行われていない段階での検証だったこと。
  • 提案方法がビットコインマイナーによる一方的な投票の形を取られ、クーデターとも取れる印象を与えたこと。

そもそもビットコインのブロックサイズは初期において36メガバイトだったが、ネットワーク攻撃やスパムへの対策のため1メガバイトへと変更された(このあたりの詳細は今後追加で調査する)。

そのためブロックサイズの引き上げには慎重な意見が多かったのか、Bitcoin XTが普及したという話は今の所聞こえていない。

そしてブロックサイズ引き上げ以外の解決策としてはSegregated Witness、Lightning Networkの導入などが議論されているが、根本的な解決には至っていないようだ。

先述のマイク・ハーンによれば、現在のペースにてビットコインユーザーが増加していけば2016年の冬には取引に遅延が発生する。今後ビットコイン普及はどのような道筋をたどるのか。

 

◇スケーラビリティと合わせて知っておきたいビットコイン中国マイナーの影響力

ビットコインが抱える問題点であるスケーラビリティについて議論されるとき、合わせて引き合いに出されるのが中国マイナーによる、支配力の影響だ。

現在ビットコインの取引認証を行う採掘者(マイナー)のうちたった2人の中国人が全体の約50%を担っているとのこと。ブロックチェーンはソステム上、多数決に似た構造を持つため悪意を持つ特定のグループが過半数以上の取引認証に関わるのは好ましくない。

現在トップ二人の中国人マイナーによる問題は発生していないが、ブロックサイズの議論などでは引き合いに出ることが多い。

例としては、ブロックサイズの拡張を行えば、彼らの独占が崩れるため、ビットコインの普及を阻害する動きを見せるのではないか。またブロックサイズを増加することで彼らの支配力がますます大きなものとなるのではないか、といった懸念が開発者から挙がる。

理想の民主主義通貨と表現されるビットコインに置いても、黎明期に大量資本を投入し大規模なコンピュータにてマイニングを行ってきたと推測される中国人マイナー。今後彼らは、どのように支配力を行使していくのか。

以上のように今後のブロックチェーンの普及が加速する中でブロックサイズなどスケーラビリティに関する考察や、その背景にある中国マイナーの存在を考慮することが重要性を増すと考えられる。

 

 

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